第20回日本音楽療法学会学術大会 講習会要旨

日本人の感性になじむ音楽療法 ~椎葉・宇目・高千穂から世界へ~

「あれ? 皆さんどうしてノラないの?」音楽療法士の殆どが音楽大学で西洋クラシック音楽を学び、その技術を臨床現場で用い、欧米の音楽療法理論を当てはめるのが当然と思っている。しかし、日本の対象者とくに高齢者の多くは楽器を弾いたり専門教育を受けたわけでもなく、伝統的な音・音楽文化にも染まり、かつての学校音楽により音楽が苦手という方も多い。音楽療法が教育ではなく治療であるならば、対象者に本音で喜び、受け入れて頂かねばならず、彼らの感性を知るのが出発点であろう。知るための、医学モデルでいうエビデンス(根拠)には、過去の日本人の無数回の試行錯誤の結果である伝統的な音・音楽文化が好適である。それらの特徴に着目し現場で有効性を確認したことは以下である。①現場で「あれ?」と対象者の感性との摩擦を感じやすい点への[注意]として、「和声に代わり音色や声色が大切で、無拍リズム(例:本来の刈干切唄や追分節)もあること、等」。②現場で喜ばれる[技法や治療構造モデル]として、「もののね、歌掛け(例:大分県宇目の歌喧嘩)、つくり歌(宮崎県椎葉村の語)、歌舞い、まつり感覚(例:宮崎県高千穂神楽)、流し、即場性、等」。西洋クラシック音楽は古代ギリシアのムーシケーが有した多様性を切り捨て聴覚中心の演奏会芸術として発展したが、日本の伝統的な音・音楽文化は、人類の音楽性の原初を残した洗練ともいえ、その特徴は現在の日本の高齢者のみならず、若い世代や世界人類への音楽療法にも有効な可能性があると思われる。このコロナ禍の引き籠もり中にも有用で、省りみる価値のある音楽体験の原点を多く含んでいる。

プロフィール

牧野 英一郎
慶応義塾大学医学部卒 精神保健指定医 武蔵野中央病院長 東京芸術大学音楽学部楽理科卒及び大学院修了 認定音楽療法士。日本文化と音楽療法研究会代表。
論文「日本人の感性になじむ音楽療法~現場の「あれ?」から伝統を確認し日本音楽的な技法を提案する~」(学会誌13巻1号2013)、 著書『日本人のための音楽療法』(幻冬舎2019)