私たちが、<クライアント―セラピスト>という関係性で交流を持つとき、特別な枠が必要となります。それは、「治療構造」と呼ばれるもので、契約の中でクライアントを守り、セラピストを機能させ、治療効果が高まるように配されます。治療目的、治療のアプローチの方法、守秘義務(秘密保持、セラピストの責任範囲、インフォームドコンセント、リファーについて など)、セッションの時間(時間以外での対応の可・不可)・場所(セラピー以外で会わない事)・頻度(変化の可能性)・期間(終わり方、終結後の関係)・料金、予約の方法(キャンセルのルール)、質問や苦情の受付、倫理に関しての訴える先の紹介など、セッションが始まる時点で、クライアントとセラピストの双方が同意をする内容となります。
これらを枠として、非日常の時空間であるセラピーの場を立ち上げていくわけですが、これらをしっかり実施していくことに難しさを感じることはないでしょうか。
契約社会に慣れていないと、ルールを明示して関わりを持ち始めるという共有に気後れがしたりします。治療場面を保護するもの、効果を上げるためのものであると分かっていても、曖昧にしたり不明瞭なままにスタートを切ったりしたことはないでしょうか。
では、どんな伝え方なら私たちに馴染むのでしょうか。言い方や表現を工夫することで、治療の一環の流れとしてお伝えすることが大切と思います。その点を、考える時間にしたいと思います。また、曖昧さを全否定せず、日本人らしい態度の在り方が生む治療関係についても考えてみたいと思います。
金沢医科大学神経精神医学教室講師。臨床心理士、芸術療法士、公認心理士、他。